秋の夜の夢
ヒヤシンス

 
 二人の天使が私のために降りてくる、あの星空の彼方から。
 一人は私を引き上げ、一人はそれを支えた。
 感情の渦を通り抜け、感性の輪を広げ、創造の平野を飛び立った。
 それを逃避だと誰が言えるだろう?

 純白の天使は虹色のヴェールを纏い、誰かのレクイエムを歌っている。
 それは私のレクイエムだ。 
 天上へ昇ってゆくとき、薔薇の咲く庭園を見た。
 金木犀の香る緑道も見た。
 大平原に咲くラベンダーも見た。
 思い出の庭に実る蜜柑の木も見た。
 そして忘れた。植物も動物も、心に根付く悲しみさえも。
 行く手には銀河があるばかりだ。

 忘却を私は初めて怖れた。
 心が震えた。
 生きていたい、そう思った。
 そしてそれは過去も未来も背負ってゆくことだと知った。
 強く生きていたい。

 気が付くと、私は自分の机の前にいた。
 机上のノートに天使が二人、書きなぐってあった。
 天使が微笑んでいるように私には見えた。
 私はその二人の天使の横に力強く、生きる、と書いた。
 少し肌寒い秋の夜のことだった。


自由詩 秋の夜の夢 Copyright ヒヤシンス 2016-10-01 02:18:25
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