欲望
ヒヤシンス


 背中に秋の気配を感じさせぬままお前はやって来た。
 私の体内時計は正午を少し過ぎたばかり。
 もう夏ではない日盛りが私の乱雑な書棚を照らし、
 知らんぷりして書き物をしている私にただ時は静かに過ぎてゆく。

 悲しみは私に留まり、喜びは逃げてゆく。
 死の中に愛を見つけると私はお前に傾いてしまう。
 生の中でお前の苦しみを見つけることが出来たなら。
 でも私に一体何が出来よう?

 境目を失った季節の移り変わりにぼんやりと机上を見つめる。
 題名に惹かれて手に入れた哲学書をほっぽり出して、
 白紙のノートに書き込んだ、ああ、無情。

 私の窓辺に西日が入ってくる前にもっとお前を知りたい。
 死ではなく生の中でお前を愛したい。
 私が確かに生きていたという証になるように。


自由詩 欲望 Copyright ヒヤシンス 2016-10-01 00:46:16
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