愛の形
鷲田

愛は始まりを告げなかった
愛は終わりも告げなかった
愛は形も作らず
愛はどこにも現存しなかった

愛は幻のように思えた
愛は煌びやかな化粧をした戯言のように思えた
愛は歌のように高まる感情のように思えた
愛はそれでも現存しなかった

あなたが置き忘れたおもちゃの中には
あなたが寝る前に行う家事の中には
私達が暮らすこの家の中には
日常だけが存在した

食卓を囲んで食べる朝食の中には
寝室に響くビアノの音の中には
皆で見るテレビ番組の中には
日常だけが存在した

部屋に干してある服の中には
皆で出かける休日の駅までの道程の中には
成長していくあなたとの日々の思い出の中には
日常だけがやはり存在した

部屋は今日も日常で溢れ
明日もやはり日常で溢れていく
あなたは学校に行き
あなたは家事し
私は会社に行く
そして皆、夜には家に帰り、静かに眠りにつく

愛は現存しなかったが
この日常は永遠に続いて欲しいと私は強く願っていた
そしてその願う気持ちが愛であると
繰り返す日常が愛であると
私もあなたも知る由がなかった

私達の一日は今日もただ静かに過ぎていった


自由詩 愛の形 Copyright 鷲田 2016-09-27 22:21:55
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