にわには
やまうちあつし

庭に穴が開いた
直径五メートルほどの大きな穴だ
思いのほか深く底が見えない
家人は怖がって埋めたがるけれど
まあ待て、何かに使えるかもしれない
主人はそれを制止する
試しにいらないものを
手当たり次第に放り込んでみる
生ゴミやがらくた
錆びた自転車や映らなくなったテレビ
穴は底が見えないものだから
いくらでも飲み込んでくれる
これは便利、と次々に放り込む
うわさを聞きつけた周辺住民も
余程捨てたいものがあるらしく
行列のできる庭
主人は怪しくほくそ笑む
妻と子どもはいっそう怖がる
さて、人々が寝静まった真夜中
主人は穴の前
月の光に照らされていた
捨てたいものは大方放り込み
今ではさっぱりしたものだったが
ひとつだけまだ
捨てていないものがある
雲が月影をさえぎって
翌朝主人の姿が見えない


自由詩 にわには Copyright やまうちあつし 2016-09-27 20:57:02
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