にわには
やまうちあつし
庭に穴が開いた
直径五メートルほどの大きな穴だ
思いのほか深く底が見えない
家人は怖がって埋めたがるけれど
まあ待て、何かに使えるかもしれない
主人はそれを制止する
試しにいらないものを
手当たり次第に放り込んでみる
生ゴミやがらくた
錆びた自転車や映らなくなったテレビ
穴は底が見えないものだから
いくらでも飲み込んでくれる
これは便利、と次々に放り込む
うわさを聞きつけた周辺住民も
余程捨てたいものがあるらしく
行列のできる庭
主人は怪しくほくそ笑む
妻と子どもはいっそう怖がる
さて、人々が寝静まった真夜中
主人は穴の前
月の光に照らされていた
捨てたいものは大方放り込み
今ではさっぱりしたものだったが
ひとつだけまだ
捨てていないものがある
雲が月影をさえぎって
翌朝主人の姿が見えない