今宵は
坂本瞳子

少し歩くと嫌な汗をかく
そして自覚する
未だ完治してはいないのだと

だからと言っていつまでも
休んでばかりはいられない

目眩を
吐き気を
催しそうになりながら
へたばらずに過ごす

ほんの少しでいいのに
優しい気持ちを分けてもらえないと
ひねくれたくもなる

座ろうとした列車の座席を容易に奪われ
こんなときにと文句の一つさえ言えず
哀しい気分に苛まれる

過るのは幼少期の想い出
軽蔑と憎悪の眼差しを伴う母の看病

年老いた母は未だ詫びることなく語る
風邪ひかぬよう
どんなにか尽力をしていた
だのに患う我が子に向けた視線が
そのようであったかと

温かい気持ちなど
この世にあるのだろうかと
疑いたくなりながら
悪寒を背中に抱えて
なんとか眠りに堕ちようと
涙をこらえて布団に抱かれる


自由詩 今宵は Copyright 坂本瞳子 2016-09-18 00:31:56
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