今宵は
坂本瞳子
少し歩くと嫌な汗をかく
そして自覚する
未だ完治してはいないのだと
だからと言っていつまでも
休んでばかりはいられない
目眩を
吐き気を
催しそうになりながら
へたばらずに過ごす
ほんの少しでいいのに
優しい気持ちを分けてもらえないと
ひねくれたくもなる
座ろうとした列車の座席を容易に奪われ
こんなときにと文句の一つさえ言えず
哀しい気分に苛まれる
過るのは幼少期の想い出
軽蔑と憎悪の眼差しを伴う母の看病
年老いた母は未だ詫びることなく語る
風邪ひかぬよう
どんなにか尽力をしていた
だのに患う我が子に向けた視線が
そのようであったかと
温かい気持ちなど
この世にあるのだろうかと
疑いたくなりながら
悪寒を背中に抱えて
なんとか眠りに堕ちようと
涙をこらえて布団に抱かれる