戯言アポカリプス
塔野夏子

有翼の人魚たちが踊る森が ほどけてゆく
有翼の一角獣たちが戯れる砂漠が めくれてゆく
忘却のような白い顔をした給仕たちが 一列に並んで
運んでくる皿の上にはプラチナの蜃気楼
異様に美しい怪文書が増殖を続ける
あの夏の日の窓辺に浮かんだ君の横顔でさえ
ゲシュタルト崩壊をまぬがれないのだとしたら
すべての道標はもはや 虚無を指し示すものでしかない
捩れた塔たちはいつしか 地平の彼方へと
立ち去った そのてっぺんにひるがえっていた
旗たちは 燃え落ち あるいは爛れ落ち
残された荒地には 時折ふいに
ぎらつく虹が立ってはまた消える
聞こえてくるのは灰色の泡のような譫言
時にそれにまじる 壊れた玩具のような
笑い声 風は重くとぐろを巻いて
頭上おどろくほど近くにある紫色の雲から
へんに気怠く甘い匂いが 幕のように
垂れ込めてくる やがて鐘が(おそらくは
最後に残された塔の上から)鳴り響く
世界の地下室へと 人々がいっせいに降りてゆく




自由詩 戯言アポカリプス Copyright 塔野夏子 2016-09-13 22:36:24
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