「蓮池にて」
イナエ

      「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)より

池の下に血の池地獄があるなど透視出来ないが
お釈迦様には見えるのだろう
大勢の亡者の中からカンダタを見つけ出した
  (相当な視力の持ち主なんだ)

カンダタめがけて蜘蛛の糸を降ろす力
仏になったお釈迦様だから万能なんだろうけれど
蜘蛛の糸もお釈迦様の意思に添ったのだろうけれど

透明な糸をみつけたカンダタ
救いの糸は0釈迦さまには必然でも 
カンダタには偶然

 今を逃したら来ないであろう血の池脱出
 藁よりも細い蜘蛛の糸であろうとしがみつく
 当然のことだ

現世を自力で渡世してきた人間のかなしさか
お釈迦さまの思惑など知るよしも無い
地獄からの脱出も自分の力が頼りだ
風が吹けば切れてしまうような細い糸
 (地獄に風は吹かないか)
親鸞が見たら言うだろう
「自力などで脱出できるものか 他力こそ本願だ」
 
地獄に落ちた人間に
六字の名号が浮かぶことなどあるまいが
カンダタが南無阿弥陀仏を唱え
糸にしがみついたままだったら
お釈迦様 どうなさる
即座に糸を切られるか 
そのようなことは出来ませんよねえ
蜘蛛の糸を垂れた以上は

カンダタの後に続いた大勢の亡者たち
わたしもその中のひとりになる
それが人間というものさ


自由詩 「蓮池にて」 Copyright イナエ 2016-09-13 21:12:52
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