night moves
あおば
160910
此所はどこの坂道じゃ
追分からヨドバシに向かうと
夜行バスの群れのエンジン音
残暑の夜を余計に暑くするよと
惰眠を貪る乗客達を僻目に
ヨドバシカメラにフィルムを買いにゆく
今度安い店が出来たよと
友だちに教わってから何十年
丸い緑の電車道を突っ切って行くと
うれしいカメラの店があるよと
歌詞を口ずさんだのも懐かしい
今でもお店はずらりと並び
一寸異様な風景に
青い眼の観光客は
スマホ掲げて記念撮影している
フィルムも売ってますが
みんななにを買いにゆくのだろうか
僕は16年ぶりでブローニーフィルムを買う
5本入りで4900円、随分高いね
40枚で約5000円
樋口一葉さんが飛んで行く
現像代やらを考えたら
写真一枚200円かかるねと
口ずさみながら暮れゆく雑踏の中を
よちよち歩むのです
どこから来てどこに流されるかは分かりません
感光した光のつぶつぶがゼラチン膜の中に銀を
そっと黒化させるのは知っていますが
それから先は知りません
シャッターを夜空に向けること2分間
星々が同心円を描き出す頃にやっと撮り終えた
終電車を気にしちゃ好い写真は撮れませんぞと
ホームレスの老人が嬉しそうに語りかけるので
コンビニおにぎりを分け合って食べる
今頃バスは小仏峠を抜け甲州を疾走しているだろう
乗客達は眠れているだろうか
運転士は眠らないで欲しいと願うが
彼も流れ星と渾名された若い頃があった
日は東に西に
バスも東に西に
北口に向かった僕は
とうとう終電車に乗り遅れ
薄暗い夜空を一晩中眺めながら
時々シャツターを切り
お金の無駄遣いをしている
さらばさらば一葉も逃すまいぞと
夜の秋風が耳元で囁くけど
野分の手下ではあるまいにと
誰も気にしないのも確かだ
日が差さない夜は余り風は吹かないんだよと
山仕事もしていたホームレスの老人は一口追加した
なにを、決まってるじゃん、焼酎とウィスキーさ
初出「即興ゴルコンダ(仮)」
http://golconda.bbs.fc2.com/
タイトルは、さわ田マヨネさん