前進あるのみ
坂本瞳子
もうすぐ息が荒くなるのを感じて
早足にならないように
気持ちを高ぶらせないように
抑えて
抑えて
前を見つめて
ゆっくりと
進む
鼻の穴が膨らまないように
肩が上がらないように
眉が釣り上がらないように
平静を装って
何事もなかったかのように
落ち着いた振りをして
前を見つめて
ゆっくりと
進む
声を上げることなく
涙を流すことなく
汗をかくことも
まばたきをすることも
手を額の辺りにかざすこともなく
歩みを遅らせず
脈さえも
鼓動さえも
乱れさせることなく
前を見つめて
ゆっくりと
進む
吐血しようとも
刺されようとも
雁字搦めにされようとも
縛り上げられようとも
跛を引きながらでも
腕をもがれようとも
この身を引き裂かれようとも
魂がこの体内から抜けだそうとも
前を見つめて
ゆっくりと
進む