私が水の娘だった時
その人が私に望んだのは
夕暮れの淡い光に満たされた
一枚の
黄色い風景画となること
郷愁のような安らぎをもたらす
穏やかなさみしい静止画像
額縁に収まり切れない私は
観念の衣装を纏う
紙の人形になる他なかった
どの服も
すぐに破れ
服が破れないときは
服の中で私の皮膚が破れた
皮膚はあの人の視線に震え
その一言の発語にひび割れ
傷だらけになる感性そのもの
ー「魂は重すぎる荷物」
ウンディーネはつぶやいたー
私は舞い上がり
観念の風に身を委ねる
観念の光
観念の喜び
観念の孤独
観念の殺意
それらは私を黒曜石のように
鋭く薄く尖らせた
ペーパードール
私がお前だった時
破れ目を繕うたびに
蟻のように言葉が書き込まれていった
薄く透明な私の皮膚に
纏いつき
浸食した夥しい蟻の群れ
憶えきれなかった
朝夕唱え続けることを強いられた経文
のように
私と蟻の僅かな隙間に違和が育まれ
破れてしまいたい
びりびりと
我が身を破く自我という観念
それとも自由
或いは絶望
それが観念である限り
解放しない
花園も田園も
山脈も
故国も
私の魂を吸い取り肉体を
粉々にしてくれる大地も
私の上にキラキラ注ぐ
陽の光
ふんだんに浴びて
流れゆく水
いにしえの私よ
既にどこにも存在しない
そんなにも恋い焦がれた人に
出会う前の
(注 引用部分はM・フーケー作「ウンディーネ」より抜粋 )