この窓から
オイタル

この窓から
杉の梢の 老いた枝が何本も
風で揺れているのを見た
生きてるみたいだった いつも

枝の間を透かして
鈍く光る雲と 色あせた青空が
微塵になっていた
昨日がまた昨日みたいだった

昼下がりの隘道を
車が通った
何度も聞こえたあの音
疲れたエンジンの音
薄れた土埃
の音

私たちは 繰り返した
杉と 雲と 青空と エンジン
友を急かす娘の声と 跳ね上がるそうめんの光と やがての風
犬の遠吠えと こぼれたミソハギと 泣かない蝉

私たちは繰り返した
ここで
この窓の この椅子で
やまない雨を
焼けたトタン屋根を
割れた茶わんを

今日が終わり
今日が始まる
私たちは何度も繰り返す
ここで この場所の この高さで
何度も何度も繰り返す
この窓からの
杉の梢の
この繰り返し


自由詩 この窓から Copyright オイタル 2016-08-21 21:21:45
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