ニュープラン
ただのみきや

一枚の写真を見せられた
それは遠い昔図書館の一番厚い本にこっそり挟んだ手紙のように
言葉にできない秘密を乗せたまま沈んだ船の位置を示すブイのように
暗い忘却の地の底へ一条の光の震える糸の繋がりを感じさせるものだった
やがて死者が輝ける衣を着て蘇るかのよう
久しく薄明の茫漠に霞んでいた意識の中
一つの記憶の小箱が音も無く開いたのだ
目覚めた記憶は感情を呼び起こすまるで眠り姫を目覚めさせるかのように
すると感情は歌声となって肉体を駆け抜けた
温かい巡り 震えとなり
甘酸っぱい波紋が広がって往く
――単純に幸せと言って良いかどうか
ただとても懐かしく 愛しく
楽しくて 嬉しくて どこか切ない
胸を詰まらせるような感覚が
何度も何度も寄せて来るのだ
開け放たれた窓から吹き込む春風のように
突然去来し
驚きつつも
ずっと変わらず傍に在ったかのように馴染んで往く
ただ幼子のように委ねて
浸りながら
干からびた涙腺に熱いものがこみ上げて来て
心はあのころの景色の中 呼吸している
懐かしい顔たちと共に
それは得難い
なにものにも代え難い体験だった


写真は全部で三十六枚あるという
ざっと目を通しただけでもそれらが大切な何かを呼び覚ます
自分にとって特別な写真であることが容易に理解できた
すぐに契約を交わして写真を購入する
代金は三日間の昏睡の後の死と死後の魂の所有権だという





                    《ニュープラン:2016年8月21日》








自由詩 ニュープラン Copyright ただのみきや 2016-08-21 20:39:27
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