アールグレイ
ヒヤシンス


 真夜中に飲むアールグレイに心は踊る。
 記憶の中のバレリーナのようだ。
 真紅の液体はほんのり苦い。
 記憶の中の初恋のようだ。

 煙草を一本。あの頃の記憶が蘇る。
 あれは横浜の祖父母の家。
 黴臭い応接間で見た光景。
 ショーケースの中でアンティークドールが静かに微笑んでいる。

 私の初恋はあの人形。
 西洋土産のフランス人形。
 赤い靴ではなかったようだ。

 過ぎ去った記憶はアールグレイに溶けてゆく。
 私の肉体もいずれは溶けてゆくのだろう。
 ああ、遥かなる横浜への想いを残して。


自由詩 アールグレイ Copyright ヒヤシンス 2016-08-20 03:57:47
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