初夜譚
塔野夏子

青い闇の中に
うすく光って浮かぶのは
吊された
右半身だけの
白いレースの婚礼衣裳だ

その左半身を
纏って逃げ去った美しい少年は
そのまま白い流星と化したという

そもそもその衣裳は
私のためのものだったのか
だとしたら
誰との婚礼のために
――それを思い出す日は
けして来ないだろうことを私は知っている

青い闇の中に
残された婚礼衣裳の右半身から
もう一人の美しい少年が
あらわれる気配がする





自由詩 初夜譚 Copyright 塔野夏子 2016-08-17 22:09:28
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