綺麗な言葉だけを身に付けて世界を歩けばいい
かんな




目覚めると光が降り注いだ
何ものも 邪魔しない
うつくしい朝焼けに
私の心はじりじりと音を立て続け
どこまでも形を失いそうだった

昨晩は
正しくない言葉が
海に捨てられて流されていく中で
私はそれらを必死に拾い集めて
拙い詩を作っていたのだ

今朝になれば
拾われなかったものは綺麗に
浄化されて水蒸気となり
雲になり雨となって地上で待つ
人々を濡らしていった

意味のあることなど何もない
私は泣き暮らした日々を思い出し
つらつらと今のちいさな幸せと比較しては
酒をちびちび飲むように
言葉を吐きたいだけなのだ

鳥たちはさえずり
朝を告げ終えたそして
どこかにある巣穴で羽を休める
休むことの素晴らしさに身を置けば
この朝もやは消えずに
世界を包んでくれる

忘れるんだという
霧の中に身を隠して暮らす
万年筆とインクと洋紙だけ持って
蔦の絡んだ邸の部屋で
繰り返し繰り返し性の描写を書く

綺麗な言葉だけを身に付けて
世界を歩けばいい 裸の王様になれる
誰もがどこを歩いているのかわからない
自分が誰なのかもわからないから
言葉を吐くことを諦めない

朝焼けが消えた空に
巣穴から飛び立った鳥たちが消えた




自由詩 綺麗な言葉だけを身に付けて世界を歩けばいい Copyright かんな 2016-08-16 13:43:01
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