推定無題
ただのみきや

ものごとを特別にするのは人の心だ
ある日を他の日と区別するのも
季節と年月
朝と夜
何処から来て何処へ往くのか定かではない
時の流れは顔も姿も見分けられないが
確実に摩耗させ消し去ることを知っているから
繰り返し循環する巡りの中へ魂を放流させる
ホンダワラに寄り添う小魚のように
互いに漂流物でしかない
国家も民族も思想も宗教も
個人より少し大きいだけの漂流物にすぎない
記録は残り
記憶は消える
想像力は個人を救いまた破壊をもする
共感は他者を救いまた殺しもする
死は人に忌み嫌われる万人への恩寵
忘却は死の生前分与
この日はわたしにとって記録であり
記憶ではない
個人の苦しみには共感しても
ヒバクコク二ホンにも
シンコクニッポンにも
ヘイワコッカ二ホンにも
容易に共感はしない
死んだライオンよりもチワワの方が危険だ
恐れや怒りが咬むという行為へ駆り立てる
犬は本能を隠さないが
人は丸出しの部分を理性の葉っぱでちょいと隠し
いつもやむを得ない理由を公表する
一万発の爆弾も人間がいなくなれば眠り続けるだろう
戦争の責任論ではない
国家や歴史を越えて
人間として加害者なのだということに
特別な記念日を持っていない




              《推定無題:2016年8月6日》










自由詩 推定無題 Copyright ただのみきや 2016-08-07 23:31:00
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