生き方/在り方
もっぷ
国語算数理科社会、音楽・図画工作そして体育のほうも…
――全部を少しずつ、でなくていいんですたとえば
漢字を一週間に十個覚える、それだけでも。
あとはできれば何か一つ、教科とは無縁でも構いませんから
ご事情が許せば習い事をさせてあげてはいただけませんか
三年生の少年の母親は小学校の担任に呼ばれて出向くと
おおよそ、そのようなことを言われた
母親は不思議そうな顔をして帰り支度を始めるし、
担任はその様子を見てさらに不思議そうな顔をする
* * *
初夏のそんな出来事も知らずにもう秋の気配の訪れの午後
少年は野原に居た、
担任が偶然に通りかかり息をのんだ
彼の手にした大きなスケッチブックに描かれつつある風景画は
とても子供の遊びとは思えない見事さだったから
はっと少年は振り向くと担任と目が合う、
やあ、と大人のほうからにこやかに声をかけた
が手遅れだった 少年は画を細かくちぎり風にまかせると
絵筆も何もかもを放り出して駆け出した、どこまでも
どこまでもどこまでもどこまでも――
…それきり彼の姿を見たものはなく、家では
片親であった母親がいつまでも泣き続け何も食べなくなり
少年の不在を追うようにして衰弱の末に亡くなった
* * *
――はずれにぽつんと位置するさびしい墓標に
いつしか良い香りの絶え間なく
うつくしい音色もしばしば聴こえる けれど
町の人間は決してその 邪魔 をしないようにと
してはいけないと』「さあおやすみなさい」「おやすみ、パパ」