なにかが見ている
ただのみきや

風が聞き耳を立てている
囀りは力なく水滴に跳ねて
その術を忘れたかのよう
石は本来の姿を取り戻した
木の根元をのそのそシデムシが
葬式帰りの太った男のように歩く
異変 ではなく
変わらない なにか
目も耳も気道の全ても
塞ごうと 見張っている
抜け目なく静かに
朝に紛れてうかがっている
病める者の幻のように


皮膚の上の迷路を
二本の指が歩いている
マリリン・モンローみたいに左に右に揺れながら
毛虫の襟巻をして
瞬間の叫びを吸い取る厚みのない顔が
刻々剥がれ足跡のように過去は老いる
思考後の灰が
頭骨のどこか隙間から漏れる
音がする
風が聞き耳を立て――
満腹しない目を
味覚を失くした目を


わたし
見られている
から
在る
のか
もしれない
監視されて
無意識に
発した言葉を追いかけて手は伸び切って痙攣し
この積乱雲の気持ち
赤黒くふくらむ本能までも
見られている
なにかに
合図を送っている
架空に変換されながら
尚も匂う
真実という幻影の王




           《なにかが見ている:2016年8月5日》










自由詩 なにかが見ている Copyright ただのみきや 2016-08-06 21:43:33
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