わすれんぼ
やまうちあつし

いつも何かを
思い出しそうになっている男がいた
道を歩いていても
仕事をしていても
本を読んでいても
酒を飲んでいても
時折手を止めて
思い当たるふしのある
顔をする
そして結局思い出せずに
もとの作業に戻る
散歩をしていても
食事をしていても
恋愛をしていても
戦争をしていても
何かを思い出しそうになっている
けれども結局思い出せない
病院に行っても
異常はないと言われてしまう
男は今日も待っている
何かしら用事を済ませながら
何かを思い出すことを
その時がきたなら
この星を去るのかもしれない
そう思う男の横で
お茶を入れながら妻は言う
思い出さなくていいじゃない
なにも


自由詩 わすれんぼ Copyright やまうちあつし 2016-08-06 11:18:24
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