わすれんぼ
やまうちあつし
いつも何かを
思い出しそうになっている男がいた
道を歩いていても
仕事をしていても
本を読んでいても
酒を飲んでいても
時折手を止めて
思い当たるふしのある
顔をする
そして結局思い出せずに
もとの作業に戻る
散歩をしていても
食事をしていても
恋愛をしていても
戦争をしていても
何かを思い出しそうになっている
けれども結局思い出せない
病院に行っても
異常はないと言われてしまう
男は今日も待っている
何かしら用事を済ませながら
何かを思い出すことを
その時がきたなら
この星を去るのかもしれない
そう思う男の横で
お茶を入れながら妻は言う
思い出さなくていいじゃない
なにも