息子という君
かんな




「食べる」

早朝から釣りに行った夫が、すずきを一匹釣ってきた。
君は大喜びして、おさかな、おさかな、と言った。
水面をパシャパシャとのたうち回った姿はまだ想像できないかもしれない。
台所で夫がすずきをさばき始めると、
おなかな、切ってるよ、パパ、切ってるよ!と大騒ぎした。
一匹のお魚はこうやって形を変えられて、にんげんに食べられるんだよ。
君はマリーゴールドが好きだけど、
例えばマリーゴールドだって品種改良されて、
エディブルフラワーとして明日の食卓に並ぶかもしれない。


「描く」

絵を描いてごらん。
君はよく、これは茶色、これは青、これは水色と色彩について説明するね。
今はまだ好きなだけ好きな色で好きなものを描ける。
自由ってやつ。
気の向くままに散歩し旅をし好きな場所で描くことができる。
大人になることは色彩を失うことににているかもしれない。
だから気をつけて。
描けないということは愛せないことと同じかもしれないから。


「読む」

君はある青年になって、
カフェのテーブルにコーヒーと本を置いて、
女の子を待っているかもしれない。
小説を数行読んではカフェの入り口を見て、
最初の一言を考えているんだ。
女の子とのおしゃべりを想像し、
並んで歩くことを想像するだけで、
どきどきして、初めてトキメキを感じている。
例えばの話だけど、沢山の本を読むように、
自然と沢山の恋をするといい。
ぜんぜん駄目な恋でもその海でもがいてみるといい。
パートナーを見つけるためだけが恋じゃない。






自由詩 息子という君 Copyright かんな 2016-08-04 09:37:11
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