花火
ただのみきや
遠く 花火の音がする
――美しい闇の舞台
光たちの素早い集団行動
ここからは見えないけど
どこかで
手をつなぎ
見上げている男女がいて
はしゃいだり
肩車されたり
こどもたちもいて
昼のように蒸し暑い
夜の帳の中で愉しんでいるのだろう
――痛恨 網戸の閉め忘れ
シタールの音色に合わせ
蚊取り線香のけむりが無形のまま立って歩きだす
夏の夏らしい群像を
掌くらいの幽霊にして
愚かしいほど部屋に浮かべては
言葉未満の震えに
一℃二℃涼しい
気がして
団扇を片手に横たわり
読みかけのタイトルは「逃亡派」
花火の音はもうしない
夜は堪えている眠るまで
真っ黒い驟雨となり
魂の奥深く浸透したくて
夜のこどもたちが
昼間も夢を見られるように
いま断末魔の蚊が見ている幻が
いつかの人の見る夢でないのなら
その時は花火を上げよう
正々堂々と
たぶん他人からは理解されない
大義や理想の周りを人工衛星のように
屍を晒しながら
そんな人肌よりも冷たい戯言が
抱き枕
火の粉降る夢
《花火:2016年8月3日》