ふたたびの青い扉
塔野夏子
ふたたびの青い扉
を開けると一瞬で模型となる街
のふちに腰かけている灰色の詩人
の帽子を奪ってゆく軽快な風
に揺れるかがやくデイジーの群れ
の上を舞う愁い顔の緑の天使
を忘れて立ち去るマントの男
が踏みしめてゆく青ざめた石畳
を転がる音符を閉じこめたビー玉
に見入る窓にもたれた少女
の髪に結ばれたリボンに化けた虹
について歌われた掠れたメロディー
にあわせて空で踊る雲
を見上げて微笑む奇術師
がたたずむねじれた橋
の下を流れる真珠色の川
に沿って幾重にも駆けてゆく少年
が夢見たプラチナの螺旋塔
から飛び立つ菫色の飛行船
から撒かれる無数の黒いビラ
が貼られた壁があるカフェー
で人を待つさびしげな青年
のポケットにある本から逃げ出す文字
が夜空に舞いあがって作る星座
を観測する紺色の目の天文学者
の飼っている銀色の猫
がすり抜けていったふたたびの青い扉