re
opus

海の上でボートに浮かびながら
スマホを弄る
画面の中では
巨大な怪獣が東京を破壊している
そして、それは事実らしい

釣りをするでも無いのに
ボートに浮かぶのは
本を読むためだ
海の真ん中で本を読むのは大変に気持ちが良い
傍にビールを携えて

本の中では大抵人が死ぬ
それは自殺であり、他殺や事故
主人公やヒロイン、その他が
1人や2人、あるいは多数死ぬ
もちろんその前にはドラマがある
その時には葛藤と判断がある
それを楽しむ

怪獣が東京タワーを破壊し
スカイツリーを破壊する
そして、霞ヶ関を

でも、
それよりも思うのは
父さんのこと
父さんは大丈夫なのだろうか?
生きているのだろうか
電話をかけるがもちろん繋がらない
メールも帰ってこない

いてもたってもいられず
ボートのモーターを弄る
上手くエンジンがかからない
堪らず叩く
脳裏にはあの日のキャッチボールと
ビールを始めて一緒に飲んだ時、
そして、暴言を吐いた時

父さんは還暦を過ぎて尚、
仕事を続けていた
何故なら
趣味が無かったからだ
さらに、
母には日常会話を地味に拒否され
子供からは煙たがられる
そんな中で行き着く先は
自己否定でしかない

つまりは、
父は強い人なのだ
もちろん人生の詳細なんて知らないが、
少なくとも僕らを成長させ、
その分、人生を賭けてきたのだ
それが「面白くないから」なんて理由で
死ぬなんて
あまりにも、不憫だろう?
きっと母も兄妹も泣いている

でも、生きていても、
きっと僕らは態度を変えないのだろう
そして、どうせもう...
そう思うと急にモーターを叩く手を止めた
ふらと意識が遠のいて海に落ちた
そのまま、ゆらゆらとボートは遠くへ離れていく

なんてこった、
今度は僕が死ぬ危機だ
でも、まぁ、いいか
生きていたって碌な事ないんだから
このまま、別にどうでも

そう思った時に
「大丈夫か‼︎」
声をかけられる
近くをボートで通りかかった人が
救出に来てくれたのだ
僕は堪らず泣きだした

自分のボートに運んで貰って
携帯を見ると父からの着信あり
折り返すと
「どうした?」と緩い声が返ってくる
いや、父さん無事だったのか‼︎
そう声をかけると
「はぁ、何が?」

どうやら、
父さんは仲間と城巡りに出かけていて
松本にいるらしい
むしろ、怪獣の事は知らず
ちょっとTV見たいからもう携帯切るわと
そんな感じ

そして、
僕は思ったんだ
日本は平和過ぎるんだって
浜に帰ったら
さっき助けてくれた人と
酒を飲む
その後に
これからの日本について
考える必要があると
そう強く思った






自由詩 re Copyright opus 2016-07-31 22:18:32
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