オリンピック前夜
初谷むい


オリンピック前日譚の日々にいて夏の電話は手汗がひどい


いきるために踊ったりしている人がラジオで話すとりあえずくしゃみを我慢する


地下鉄の出口にあつまる虫の写メあなたに送れば日記になるし


オリンピックを見ずに終わる夏なのだろう爪がはげたら爪を塗る日々


届かない手紙届かないおれの夏 似顔絵なんども書いたけど下手!


夏は進む 毎日アイス食べるため替えてもらったごみ箱のふくろ


あなたはまるく眠りときどき転がるよ さようならオリンピック前夜





あなたに会えなくなって、それから夏が加速していくことが少しだけこわい日々を過ごしています。オリンピックは4の倍数のときに起こるんだって、夏と冬とばらばらに来るのだって、それはこの星ではわたしたちと逆の人たちもいるのだって、だれも教えてくれなかったからさいきんじぶんでわかりました。あなたがにこにこしてくれることで息を吹き込まれる魚のようなものがいて、それにきちんと気づいていてほしい。走れる足を持っている、だれもが。夏は図書館で寝ている夏は、それでも夏で、みんながぬるい空気でうかびあがって、それが空のようでいとおしかった。ラブソングがほんものになる夜もあるね、そのときにあなたの寝相がくるしくないといいな。げんきでいてねって大きな声でひとりで言ったらとても元気が出たんです。夏が終わったら、ゆっくり伝わるはずだから、あとちょっとだけまともでいてください。それでは、愛を込めて、また。


短歌 オリンピック前夜 Copyright 初谷むい 2016-07-30 16:52:35
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