蜘蛛
田園

ぷらり
蜘蛛が空から垂れてくる
私は呆けてそれを眺める

あなたは私の「蜘蛛の糸」か
そう問いながら
糸をすくって
この指の中にゆらゆら揺らしてみる

無防備にぶら下がった蜘蛛は
到底ほとけの救い主とも思えずに
ははは
渇いた息を吐く

君は家をつくるのか
そして蝶をとらえるか
だが今は私の指の先
ゆらゆらゆらゆら揺れている

ごめんよとまた息を吐く
意味など無いのだ
ただの呼吸音

さわさわと足を動かしている八本足の
生き物は
ぽっかりと空中に浮かんだ一体の


殺そうが
殺されようが
何かを思う暇など無いのではないかな

ただ衝動が
体液の流れ出る衝動が
蜘蛛を支配する
私を支配する

熱い
私も熱を帯びたただの一個体
食い
交わり
糞をする

ああ、
「蜘蛛の糸」よ
救いの時はまだか
掠れ掠れほうほうのてい
蜘蛛を見つめる
糸をより長く垂らした蜘蛛は
やがて地につき
己が生に戻る

私に操られた一瞬など
気づきもせず

さあさあさあ

残った糸の感触を指先で追い
ぺろりと一舐めして飲み込んだ
私は空を飲み込んだのだ
私は空を飲み込みたかったのだ

さあさあ

蜘蛛は這いずり回る
私もまた這いずり回るだろう
だが
最早絶望も高揚も鮮明すぎてなだらかだ

さあ

ぶら下がるのは誰の生



自由詩 蜘蛛 Copyright 田園 2016-07-29 20:40:02
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