vision.08
ひだかたけし

緑、濃く匂う深山に
一つぽつんと神社があって
鳥居をくぐり灰白の石畳を進むと
自分が社の前でやや前傾姿勢になり
何か一心に手を合わせ瞑目し続けていた

わたしは自分の黒い後ろ姿を見ながら
何処から微かに聴こえて来る沢の流れ響きに耳を傾ける
すると、
どんよりと空を覆っていた雲が割れ
緑の余韻だけに覆われ薄暗かった境内に
さっと夏の陽射しが一条降り注ぎ
濃密な静けさが剥き出しの姿で浮き上がった

[此処には何かが居るーそれも無数に]

わたしはふとそう感じる
感じるというより感触として、
その何かが自分を内から外から
囲繞し熱持ち包み込んでいるのだ

そう感知した途端、わたしは
社に手を合わせていた自分と一体になり
途端激しく降って来た蝉時雨の響きの中、
己がこれまで全く盲目のまま生きてきたことを理解した。

深山の濃密な緑に囲まれ建つ小さな神社の一角で


自由詩 vision.08 Copyright ひだかたけし 2016-07-26 18:08:20
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