ランドスケープ
DFW



おそらくそこは岩がちでやや閉鎖的な地形をしていて
そこに人物が配置されている
周囲には緑豊かな扇状の低地がひろがりその先には森が形成されていて、遠くに暗青色の山が連なり、冷たい尾根には白い曇がまばらに被さっている

山の中景からふもとの盛り上がりにかけて、深緑と青、黄土、鮮やかな紫やバラ色がかったモーヴ、まだ固いプラム色やピンクが混乱して渦巻き、交錯しながら揺れている

それら二つの地形の塊が出会う場所で
方位は失われている

人物は 断続的に眠った
起きると、なんでも拾ってあつめた
それをぜんぶ寄せて 円錐にする
円錐は高ければ高いほどいいと思い
あちこちに拾いにいった
人物はときより心理的にうずくまる

拾ってきたものをどんどん押し込むと
やがて円錐の特異点は人物からみえなくなった

最初に拾ったものがなにで、それがいまどの辺りにあるのかはわからない
ひとつまえに拾ったものも忘れることがある

せめていま何が頂角付近にあるのかを確認するため
地盤のゆるい底面の円錐の母線に沿って
人物は手足を滑らせながら
発作的に登りはじめた

だんだん風が強くなり
人物のからだはギザギザになる
有刺鉄線から受けたギザギザの傷のように
人物はなんとかしがみつきながら進む
やがて太陽か月か星か、なにかの明かりのなか
人物はからだ全体を円錐の表面に付着させて
登ってきた斜面を見おろした

そこには湖があった
深緑にかこまれた水面が円錐を映しだしている

人物は目をこすり、すべてが森かげの湖のほとりで起きはじめている気がしはじめる
その木々の枝越しに、その枝間に、擦れる葉の奥にたたずむ青い木々の根元、草花の花びらや茎の濃い陰りに、土の匂いに

人物がよく見るとのぞきこむ人物の顔が湖に映り
、それが珊瑚色、濃い茶色、橙、さらに大胆なオレンジ、灰紫色、濃いアメジスト、金緑色、赤褐色から黄色にシフトしていく
そのゾーンの最初は深い青で描かれていた


人物側の円錐の死角から黒い水鳥たちがあらわれ
湖に波紋をひろげて着水する
水鳥たちは人物の顔にすいすい寄っていくと水面をつつき
すばやく飛び立った

水飛沫でちぎられた人物の顔の欠片を嘴にくわえ 
さしてご馳走でもない獲物のように
濡れた黒い喉に流しこむ水鳥たちの胃袋は生温かい

人物の重さで斜円錐に変形していた拾ってきたものの総体の表面を
人物はずるずると滑り落ちていたようで
起きて顔を洗うと人物はいつものように何かを拾いにいく




自由詩 ランドスケープ Copyright DFW  2016-07-24 23:32:20
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