絶望の希望はただ乾いたピストルの音
ただのみきや

古いガラスのように蒼ざめて鳴り響く

 ――あれは なに?


       掌の海から跳ねる両目を失くした魚
           それは
テノヒラ 温かすぎる子供のテノヒラで
  弱り果て 崩れてしまう
 常夜の 天使の
  それ は  
   苦痛と悲哀の秘匿
          日時計のように黙々と 光に打たれながら 
     ただ影の中を静かに 流れる
              眼差しの冷たすぎる夏

 ――あれは だれ? 
     なんと呼んだらいい?


遠く逃げ水を横切ったカモメのような白
       それ は
           夕日の中で溺れてしまう目を  閉じても
 火炙りにされるから   魔女の
     唇から漏れる
         やわらかな囁きの雫
   あばらの隙間に落ちて 
掻き毟っても 
      引き千切っても 
             こみ上げて
         幾重にも 
     波のように 
       終わらない
 散り続ける花びらの 
        膨らみ続ける蕾の
   美しい地獄の 
      捻じれた角笛の  

      
          言葉は追いかける
      なりふり構わず  恋人を追うように
破綻を繰り返し  異端と嘲られ
             追いつけない いつまでも
       自らの  足跡だけ
          孤独の  連綿として 
   幽かに時空を宿し 点々と
 燐のよう 
       だけど闇より暗く  燃えていた


        蜜蜂のように耳元に唇を寄せる
白昼の絶望の甘い眩暈こそ   希望
            響き渡るピストル
    不明の座標に落ちた
           蝉のような一つの死を
                    黒い文字が覆った

    
      消えて往く けむり
              ひとすじの 青白い舞踏




         《絶望の希望はただ渇いたピストルの音:2016年7月23日》








          


自由詩 絶望の希望はただ乾いたピストルの音 Copyright ただのみきや 2016-07-23 23:10:08
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