蹂躙
吉岡ペペロ

ここは観光地だったけれど行列してまで食べたいものなどなくて

カラオケ喫茶みたいなところに入りオムライスを注文した

オムライスには外れがない

その代わり当たりもない

店のなかはペットの臭いが充満していた

地元のひとが昼間から酒を飲みわりと上手な歌声をひびかせている

本棚には野球漫画がたぶん全巻そろっている

手に取るとべとべとしていたから読むのをやめる

カウンターが物置みたいになっている

オムライスが出てくる

ぴらっとした薄い卵焼き

フライパンの油臭い焦げが付着したケチャップライス

ぼくは行列にならぶのが嫌でこの店に入ったのではなかった

こどもの頃の追憶に身を置いてみたかっただけだ

あのころぼくがいた環境にこの店の粗雑さはよく似ていた

当たりも外れもないオムライスをまえにぼくは

なにか人生というものに蹂躙されてみたかっただけなのだ






自由詩 蹂躙 Copyright 吉岡ペペロ 2016-07-18 21:18:15
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