猫背
やまうちあつし

世界のどこかで
猫が丸まって眠っている
その背中を撫でてみたとき
自分が誰かわかる気がする
どうしてあんなに
夕焼けが燃えていただろう
どうしてあのとき
泣いたりはしなかったろう
レモンドロップを口に放り込んだら
使い古された諺くらい
私の中にも残っているだろう
路地の奥の方で
人影が手招きをしている
十年に一度は旅人になって
百年に一度は赤ん坊に戻って
千年に一度は皆が途方に暮れて
(あるいは〈修羅の十億年〉)
この街のどこかで
猫が丸まって眠っている
その背中を撫でてみるとき
君が誰だかわかる気がする


自由詩 猫背 Copyright やまうちあつし 2016-07-18 20:13:21
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