氷の記憶
由比良 倖
引き出しの奥のカメラに氷河期の白い記憶を閉じ込めたまま
唯一の命を抱えプラズマのウサギと共に言葉を泳ぐ
空っぽな夜にはひとに知られずに空へ静かな青を吐露する
(永劫)が送電線を流れてく一人称が星降る夜中
この世には存在しないイメージが廃墟になって続く裏庭
仮想的永遠が消え去ったとき生まれてしまう苦しい無音
家中のプラグを全部引き抜いて孤独に部屋を調律したい
暖かい日がモノクロに水飴のように傾きながら揺れてる
誰ひとりいない世界でひとり泣く仔猫のような嘘を吐きたい
目に滲みる滅んだ地球の上、午後、太陽フレアがぼんやりとして
身体など要らないよまた海へ来る約束だけ忘れないでいて
人類がきらきらと死に絶えた日、ずっとブランコに乗って見ていた
私などいない世界へ消えたくて)文字の通り)に身を投げ入れる
甘い粒、光の夢が降りしきる底でおんなじ雨を浴びてる
雨降りの記憶の遙か彼方には奇跡などないなんて嘘だよ
願望は遠ざかる日常でただ泣きたい程に夢見たいだけ
無音の首を引っ掻いて何も感じない日を青く彩色する
日と痛みだけだよみんなひとりきりでも何かして死ぬまで遊ぶ
透き通る林檎の夢を曲がる切れ切れの頭と置き去りの足
有り方はただひとつだけ雪道へ孤独のための青を映して
夜を抜け誰もが生まれる前の朝、数えもせずに錠剤を飲む
君との距離が離れてく、天国は無人の街のチャイムみたいに
あたたかなガラスのような明るさを抱いて心を殺して眠る