2/3
紀ノ川つかさ

その少年は2/3が
狼を飼い慣らしていることを知っていたので
ひどく怯えていた
村人達は狼が恐ろしいことは知っていたが
狼がどんな生き物かは知らず
まさか村の近くに来ているとも
思っていなかった

ある日
2/3は村に向けてウサギを放った
少年は2/3のしわざと知り
村人達に向かって叫んだ
「狼が来たぞ!」
村人達にはどう見てもかわいらしい動物にしか
見えなかったが
少年が必死なので村の外で飼ってみることにした
「これは狼だ! きっと今に恐ろしい獣に変わるんだ!」
少年は必死に叫ぶが
ウサギはおとなしくニンジンなどを
食べては眠るばかりで
恐ろしい獣に変わることはなかった
ウサギは村に迎えられた
村人達は愚かな少年を指さして笑った

またある日
2/3は村に向けて馬を放った
また少年は叫んだ
「狼だ! 狼が来たぞっ!」
村人達はまたその動物を
村の外で飼ってみることにした
それは速く駆けるが恐ろしくはなく
力持ちで人になついて一緒に働いてもくれた
馬も村に迎えられた
2/3の何が怖いものか
村人達はまた少年を指さして笑った

そして2/3は狼を放った
恐ろしい牙が光る獣だった
少年は三たび叫んだ
「狼だ! 今度こそ狼が来たぞっ!」
少年の声に耳を傾ける者は
もう誰もいなかった
狼はそのまま村に迎えられた
そして村人は一人残らず
狼に食われてしまった


自由詩 2/3 Copyright 紀ノ川つかさ 2016-07-12 23:29:41
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