キャンサー、傘のひらかない街の蟹座
DFW
突然のザーザー
ウェザーリポートはまるで午後の嘘つきなわたし
すっかりじゃなくてすっきりハゲた祖父は
延命という言葉は適切な用語だろうかと
病床からあれこれ言ってきた
好奇心は猫を殺す
遠い国のことわざを
祖父はかっこつけて言う
人参はもう煮えましたってわたしは言ってやる
レッドブルをこぼして汚れた祖父のパジャマ
たよりない食器の病院食を平らげてゲップすると祖父は眠り、いびきをかきはじめる
ナースステーションに挨拶して
売店でアミノ酸を買い
わたしはピンクの自転車にまたがって
雨のなかにコギだした
傘を差す人たちはいない
傘の概念が消えたみたいな街で雨宿りする女の人
ただひたすら走るスーツの男たち
水溜まりを勢いよく蹴って歩く低学年の子
そのそばをわたしはうすく脱皮して横切る
祖父のキャンサー
雨のダンサー 、
雲にかくれた蟹座は
わたしの眼に産卵して
わたしのなかで雨が立ったり座ったりをする
傘のひらかない街に打ち鳴らされた
祖父のいびき
狭いはずのわたしの体の雨音は
わたしの運命をブクブクと宿しだす
ふくれた唇が
なにか伝えようとして
破裂しそうな果物みたいに
いまそれはみずみずしい
いっそ手放しでコギたいけど
それはちょっとムリ
蟹座がブクブクふいた泡にまみれた街並みが
顔面いっぱいに飛び散って
わたしはじめて生きてることを知ったから