island
ホロウ・シカエルボク
床に転がったおまえをどこに捨てよう
細かく切り刻んでビニル袋に詰めて
生ゴミの日にまとめて捨てよう
どこかから車を盗んできて
山の中まで連れてって埋めて捨てよう
それとも誰も来ない辺鄙な海岸に連れて行き
ガソリンをかけて燃やして捨てよう
アルコールは次の日まで一日中
喉の奥から嫌な臭いをたて続けた
視界は煙草の煙につつまれたみたいに
霞んでほとんどのものが見えなくなった
ディスプレイに映るものは見苦しい自尊心ばかりで
電源を落とすとファンが妙な音をたてた
どこへ捨てよう
夜の夜中、童歌がずっと
窓の外でこだましていて
大人とも子供とも判別のつかないその声は
奇妙な抑揚を延々と震わせていた
うたの始まりは何だったのか
それは祈りのようなものではなかったか
油虫が壁を這う、新聞を丸めて叩き落して
仰向けになったところを踏み潰す
内臓が痛むような音がして
足の裏に潰れた黒いトマト
カサカサとした忌々しい生の終わりを
ティッシュペーパーで拭いて丸めて
捨てる
売春婦たちはいつでも
トロトロになっているような声を出しているが
寝床に入るとあらぬ方を見て
忘れたもののことばかりを考えている
往生際の悪い谷底で
どこかの馬の骨の悪臭が出口を探している
さよなら、前奏だけがおまえのすべてだった
雪平鍋の中でおまえの置手紙が
コトコトと煮込まれている
鰹節の匂いは穏やかな気分にさせるが
なにかしらの解決をも生むことは出来なかった
焜炉で鍋底を淫猥に撫でる火を見ながら思う
あれをいつか食むときが来るだろうか
街なかの獣のように腹は呻いているが…
零時
脳味噌はあの鍋のように炙られているようで
グツグツと煮えたぎり吹きこぼれている
汗が滲んでシャツをへばりつかせ
愚かな暮らしに磔の七月
祈るものは誰も居ない、願うものは腐るほども居るのに
こんな夜の希望は光を求めないのだ、ごらん
月さえも茹だるような空の中で
灰色に色を変えている
爆竹が破裂する!そこら中で!
火薬の臭いが充満していて
目から涙がとめどなく流れる
あーあ、あーあ、赤子が泣いてる気がする
母親なんぞとうの昔に居なくなってしまった
おまえはそれでも乳を欲しがるというのかね
どこへ捨てよう
ダストシュートに五才、ボイラー室に八才
天井裏に十二才の少女
冷たくなって青白くなって
甘酸っぱいにおいを放ち続けている
時々ほんのり涼しい雨の夜にはひとりずつ降りてきて
売春婦よりはずっとマシな手口を曝け出す
お駄賃も欲しがらない
夢はいつでもぬるぬると動く虫に彩られていて
ノクターンのリズムで躯が飲み込まれていく
あああ、あああ、あああ、悲鳴のような、赤子の泣声のような
あの声はおまえらの体が擦れ合う音なのか
盆が近いのに大人しく出来ないのか
おまえたちがいつまでも道を覆い隠していると
戻って来た亡者たちが行く先を忘れてしまう
灯
上手く切り離せず、ぬるぬるとした
妙な色の液ばかりがそこらに流れ出して
力を込めた手は滑り手のひらをすっぱりと
いつのまにこんなに血まみれになることを忘れたのか
健忘症のように刃を見つめたままぼうっとしている
カチコチと鳴るのは柱時計ではない
上手く合わせられぬこのおれの歯の根の音だろう
どこにも捨てられない
床に転がったおまえは夏よりは冷たく
寒くもないのにおれは震えている
血はとめどなく溢れ来る、おお
床は精巧な絵地図のようだ
二人で粘りつく旅に出よう
旅券を手に入れさえすればそれでいい
漁師に握らせれば船を出してくれるだろう
おれとおまえは無人島に流れ着いて
聖書のような暮らしを始めるだろう
おれたちのことを忘れられないように
ともだち連中に手紙を書こうよ
ああ、そうだね、丁寧に詳しく
美しい景色のように綴ろう
指の震えさえとまればね
指の震えさえとまれば…