嘘まんじゅう
藤鈴呼


淀みなく くるくると回る辛夷の葉が 
余りにも大きくて 目を閉じたけれど
バララン バララン ば~ら~ら~ と
黄色の房でも思い出しそうな 激しい音とともに
何処までも 追い駆けてくるから
存在感だけを 消せない

視界の隅に 何だか分からぬ 黒い物体を認め
認める迄もなく 目を逸らす 瞬間にも 似ている

二艇のボートが ゆっくりと進む
乗っているのは カナカナと 動かなくなりそうな 
スズメバチ
きいろすずめばち とか そういう名前だったように
記憶しているが 定かではないから
ついでに 唇まで 閉じてしまおう

決断したからには リップクリームは ジャマだ
あの池に 落としてしまえ
ぽちゃん
何とも言えぬ 馬鹿らしい音が響いて
思わず くすりとする
頬が緩んだ瞬間に 思い出したのは 昼用の薬
未だ 服用してないじゃないかと 
ペットボトルを取り出して
ひとまず 炭酸で 喉を潤し 咳をする

空っ風の向こう側
乾いた空気感ばかりが ゆっくりと漂い
わざとらしい笑顔ばかりが 響く部屋の中で
思わず口を吐いて出たのは 溜息の代わりに
認められない ミステイク

「硝子にぶつかった カワセミの燻製が---」
瞬時に ヤバイオーラが漂い始め
私は ニヤニヤしながらも 体裁を整える
いぶりがっこの 香ばしさを 思い出しながら
あの 美しい 剥製を 脳裏に浮かべた

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自由詩 嘘まんじゅう Copyright 藤鈴呼 2016-07-02 20:07:38
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