扉
為平 澪
夜間にバタンバタンと 階下で扉を 
開けたり閉めたりを繰り返す父の扉 
私が玄関の扉を開けっぱなしにして遠方に去ってから 
ずっと開いていた 扉 
帰省する毎に 小さく細く白く可愛く寂れてゆく 
玄関の扉の、隣には 父 
出て行く時 必ず見えた扉と 茫然と見送る父の姿 
夜間に限って階下でバタンバタンと 
父は扉を開けたり閉めたり 
二階では停電させたような部屋で娘は毛布を被っては 
大河がうねるようなクラッシックを 耳を塞ぎながら 
大音量で聴いている 
私が泥棒に見える日、父は扉を閉めたがる 
私が娘に見える日、父は扉を開けたがる 
父が扉を締め切る日、私は河へ身を投げる 
私が溺れて泣いてると、父は扉を開け放つ 
そんなことに疲れたと 、 
私はいつか 鍵を河へ投げ捨てる 
家は迷宮になるだろう 
父は私のいる部屋を 探して探してさ迷うのか 
この家の一番奥の深い深い暗い部屋 
その扉を見つけたら 父は戻ることはない 
誰かが父のいる部屋に鍵をして 河の水を入れている 
家は扉を 片付け始めた 
私は父の背中に「入口」とも「出口」とも 
指でなぞれないまま ただ茫然と立ち尽くす