spring pringles
アタマナクス
桜の蕾が開いていくその季節はあの時とまるで同じ
無邪気なあの娘に初めて下着の中身を見せた時の感覚
小部屋を占領するダブルベッドの上はあまりにも不安定で
羞恥心とその先への恐怖をあどけない好奇心で高揚に変えた彼女の
キラキラとした笑顔は俺にはギラギラギラとだけ映った
大脳新皮質を持った奇形の雄カマキリである俺は
齧りとられて真っ赤なアタマが世界に花開く
その恐らくは耐え難い幸福と快楽を予見し 糾弾された
死んでいるように生きている
言語で仮定された時間で厚化粧をした
ゾンビーの隠し通せない腐臭を
彼女はその上腕の傷跡と匂い立つような頬の赤みによって糾弾した
前歯の歯科矯正具 脱色してパサついたヘアー
見開かれた目玉 その先に確かに他人の脳髄が蠢いているという事実は
そしてその天然の麻薬物質に満ちた全身がこの俺を求めているという事実は
アトピー性の皮フ炎と感染したブドウ状球菌によって焼けただれた全身を
翼で覆いつくし卵の殻とした第二次性徴期を未だに引きずっていた俺にとって
ハードル走の決勝に立たされた脚萎えの男のように恐怖でしかなかった
一瞬でも歓声に包まれる想像をしていた自分を恥じていた
そしてその不安と緊張を曝け出すことも出来ないほど
俺は父に殴られ 母に犯された
ディスプレイにしか射精出来ないガキであるままだった
桜の蕾が開いていくこの季節はだからあまり好きではない
本当のところ彼女は終始口元に笑みを浮かべていたし
眉根を寄せながらのそれはグアダルーペのマリアの様であったし
しかし俺はその様を本を読むようにしか感動できず
結局 彼女の眼鏡の上に射精することが癖になった
そして俺は10キロも太り 眉間と額にしわが増し 髪の毛が伸び
とりかえしのつかないことが人生には何故かあると既に知っていた
当然彼女はここにいないし
当然俺はなんとなくひとりだった
とりかえしのつかないことが人生には何故かあると既に知っている
忘れたり思い出したりしながらいまここに立っている
砂を手のひらからこぼして珊瑚の花に思いをはせたり
踏みしだかれた地面の桜をぬるいビールで流してみたり
歩き続けることもままならない日々にへらへらとキスをしたり しよう