紫陽花
しょだまさし

「こんなはずではなかった」
帰りたくない

居眠りをしてしまい
気づいて飛び出た場所は
聞いたこともない名前の
無人駅だった

紫陽花の咲く線路脇にいる
若い母子が傘を共用しながら
カタツムリを観察して
笑い合っている

息子も私たちが離婚する前は
こんな風に親に笑顔を
見せてくれていた

母子が去った後に歩み寄り
雨中の花と虫をスマホで撮って
彼の引きこもる部屋のPCに
メッセージを添えて送信した

『殻に閉じこもっていたのは
私の方だったみたい

今から帰ります』


自由詩 紫陽花 Copyright しょだまさし 2016-06-11 21:57:54
notebook Home