滑稽な毎日
あおい満月

目玉焼きを満足に作れないあなたが、
一番好きなものは目玉焼きだ。
手元がみえないあなたは、
いつもフライパンの外に卵を落とす。
あるいはフライパンの縁に卵を
重ねて落として、
出来上がる頃には、
ぐじゃぐじゃの半熟卵が
お皿の上に置かれる。
黒こげに近いパンと一緒に、
口のなかいっぱいに頬張るあなたは
日向の猫になって微笑む。

あなたを知らない人たちから見たら、
滑稽に見えるかもしれないが、
もう何十年も見続けている私には、
普通のありふれた穏やかな日常だ。

あなたは正反対のものが好きなのか。
毎日はくパンツも裏返しではくし、
靴下もびっこしゃっこだ。
私がいくら注意をしても、
見えないんだからいいの、
私にはこれが表なの。
といってきかない。

あなたは風呂にも、
真っ暗なまま入浴する。
いいの、
私にはみえるんだから。
の一点張り。
可愛いようにも見えるが、
どこかいつもはりつめている。
それはきっと、
目のみえない人間の気持ちは
誰にもわからない、
ならば、滑稽な道化のまま、
人生を貫いてやろうとする、
あなただけの決意にも見える。

仕事のない土曜日の朝、
あなたに目玉焼きを作る。
弱めの中火の火加減で、
大好きな半熟卵をつくる。
きつね色のトーストと珈琲を添えて。

(お母さん、できたよ)

そう呼ぶとあなたはあの猫の笑顔になって、

ありがとう、おいしい。
そういっていつまでも、
目玉焼きを頬張っている。

他の誰かからみたら、
滑稽な毎日かもしれないけれど。



自由詩 滑稽な毎日 Copyright あおい満月 2016-06-08 20:50:16
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