次の人達
竜門勇気


雨に松葉をかざして歩いてた
旅に出る気はなかったけど
最終的にそうなったんだ
自分探しの旅券を買って気づいた
錆びた自販機に僕を売り払っていた事

最初にたどり着いたのは
甘い匂いの図書館で
押し入れの中みたいな綿埃だけが
二つの棚に並んでた
深呼吸をしたら司書が飛んできて
襟首を掴まれて背中からまともに叩きつけられた
呼吸って罪なのかも
考え事なんてしないほうがいいのかも

次に潜り込んだのは市役所の横の換金所
しばらく眺めていたけどいつまでも列は続いてた
市役所がシャッターを下ろした後
お腹が空いて死にそうになるまで待って
やっと入ることが出来た
それほどは粘る気もなかったけど
ずっと中から聴いたこともない音楽が聞こえてたから
ドアを開けて中にはいって青い看板に従った
裏口から外に出た
星が綺麗だった
悩んだり苦しんだりするのは無駄なのかも

空腹が怪我のようになってきた
治らない病ってこんなふうだろうと思った
松葉をかじりながら雨足の届く道の上
雨ざらしの野菜畑に忍び込んだ
半分だけ腐った胡瓜を囓る
腐った場所はスニーカーに押し込んで
そのまま歩き出した
星が綺麗だけど月は見えない
きれいだよ、と叫んだ
月に聞く耳があれば聞こえてる
喜んだり楽しかったりするのは
きっと、うそだよ



自由詩 次の人達 Copyright 竜門勇気 2016-06-08 00:24:34
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