朝の歌。
梓ゆい
雪が溶けた駒ケ岳の山頂は
空よりも色濃い青で
夏休み初日の朝を告げる。
裏の畑から
私を呼ぶ父の声がした
長靴を履き麦藁帽子を被って
くるくると螺旋を描く葉や茎を折らぬように
夏野菜で覆われたアーチをくぐった。
これを持って行きなさい。
籠いっぱいのトマトとナスを手渡して
父は私が転ばぬよう
今度は二人で夏野菜のアーチを出て行く。
日が高く上る空を
とんびが大きな輪を描いて飛んでいる。
軒先の猫が
縁側で汗を拭く父の姿を
じっと見つめている。
トマトを水に浸して
母の手の中で綺麗になったナスを籠に置き
庭先に訪れたオニヤンマを
虫取り網を持って追いかけた。