朝の歌。
梓ゆい

雪が溶けた駒ケ岳の山頂は
空よりも色濃い青で
夏休み初日の朝を告げる。

裏の畑から
私を呼ぶ父の声がした
長靴を履き麦藁帽子を被って
くるくると螺旋を描く葉や茎を折らぬように
夏野菜で覆われたアーチをくぐった。

これを持って行きなさい。
籠いっぱいのトマトとナスを手渡して
父は私が転ばぬよう
今度は二人で夏野菜のアーチを出て行く。

日が高く上る空を
とんびが大きな輪を描いて飛んでいる。
軒先の猫が
縁側で汗を拭く父の姿を
じっと見つめている。

トマトを水に浸して
母の手の中で綺麗になったナスを籠に置き
庭先に訪れたオニヤンマを
虫取り網を持って追いかけた。



自由詩 朝の歌。 Copyright 梓ゆい 2016-06-05 15:43:48
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