スマートフォンの間で
イナエ


朝の光に濡れた電車には
七人掛けのシートに七人が腰を下ろし
つり革にも人の手がゆれていた

厳つい男と痩せた男の間に
若い女がはまり込み
ゆらーり ゆらりと
自分の世界で揺れ始めた

厳つい男の肩が 女の肩を押し返す
揺れて女は 痩せた男の肩に当たる
痩せた男は
体をよじり尻をずらすが
隣に座った化粧の強い眼の端が
放った視線に射られて
動きは止まり 肩がこわばる

二つの肩の間で女が揺れる

厳つい男はスマートフォンを取り出し
流れる経文を見つめて仏像になる

女の肩は痩せた男の肩に挑む

痩せた男は
肩を前によじり 後ろに逸らして
女を避ける

電車は波打つ 
女は揺れる 
男は逃げる

スマートフォンを手に男は
思いがけない女難に遭って
勤行のできない困惑に
あたりを眺め 救けを探す

揺れる電車の人々は波に乗り 
それぞれが手にしたスマートフォンに
描きだされる穢土の世界を
思い思いにさすらっている



自由詩 スマートフォンの間で Copyright イナエ 2016-05-30 11:34:21
notebook Home