夜を訪ねて
木立 悟





水のなかの鐘が鳴る
祈りではなく
怒りのままに
鳴らされつづける


静かすぎる径の
はらわたが響く
光の内の
水泡をほどく小さな指たち


穴の向こうのまぶしい灯り
そのすぐそばの淡い灯り
ふたつの灯りしかない空が
焼け焦げた万華鏡のように震えている


どこまでも昇る姫と王子に
暗がりは晒され 終わりはじめる
硝子 鏡 水晶 鉛
明るさの無い明るさにはばたく街


さかさまになり
空の上の上の鉱を撃つ
誰にも叱られたことのない子供
毎日誰かに隠されつづける子供


白桃のにおいの森を
幼い姿の親と歩いた
庭の花について
少し話した


水の脚が
空の脚にまぎれて地を歩む
区別のつかない灰と震動
曇の皿を支える小さな指たち


夜はところどころ浅く沈み
羽と羽の幻は重なり
いつしか鐘は聞こえなくなり
水紋だけが
何かを埋めるようにつづいてゆく





























自由詩 夜を訪ねて Copyright 木立 悟 2016-05-29 21:14:25
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