そらをおよぐ
あおい満月

冷たい壁の前で、
私は人形をにぎり立っている。
人形は、
いくら圧力をくわえても、
宙をおよぐ目をして
星のない空をみている。
私は昔から、
そんな目が嫌いだった。
何かを問われる度に、
あらぬ方向を向いて、
すり抜けていく人たちを、
撃ち殺したくて堪らなかった。

鏡にナイフを刺す。
ひび割れた境界からマリア像が映る。
マリアよ、あなたが赦すものが、
私には赦せません。
気がつけば、
手のひらが血まみれだ。
私はいつの間にか、
マジックで手のひらに、
十字架を描いてナイフを突きつけていた
自分の痛みにさえ気づかない魂が、
やがて他者を傷つけていく事にも気づかすに。

人形は屑になりながらも
宙をあおいでいる。
本当は、
あなたの生きざまが憎いのではない。
その目を宙におよがせた、
ノイズを飲み込んだ風が憎いのだ。
私の目は宙を泳げない。
まっすぐに直視することしかできない。

さっき、
あなたは振り返った。
そして宙をおよぐ目で私を追いかけた。
あなたにはみえない姿で
あなたには聴こえない声で、
その柔らかな指に触れたのに。
あなたは頭上の道を映す鏡に目を触れる
そして映りこんだものは、
胸から血を流した、
目を宙におよがせた私でしょ?



自由詩 そらをおよぐ Copyright あおい満月 2016-05-28 00:05:24
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