ラストカット
少年(しょーや)
思いきり行きたいって思いきり思った
思いきり泣きたいって思いきり思った
ただ思いきり笑いたいって思いきり思った
思いきり生きたいって思いきり思った
「昔々あるところに…」なーんて言えるほど大したエピソードなんて持ち合わせてなくて
そもそもそんな素敵な物語になるような事なんて今までこれっぽっちもしてこなかったんだ
これまでの人生で唯一し続けてきた事って言ったら、なけなしのたった二つの事くらい
「人を恐れること」と「人を疑うこと」
今にしてみりゃそんな自分自身が一番恐ろしく疑わしい
ただただひたすらに目に映るもの全てを片っ端から見下ろしては興味を示さなかった
興味が無かったのは確かだ
確かに確かなんだけど、どうしても誰にも言えなかったのは
「何にも興味を示さない自分」に興味を示してよってこと
自殺願望は年齢が二桁になる前から持ち合わせてた
思い切って歩道橋の真ん中に突っ立って見たものの、かなしいかなどうにもこうにも高所恐怖症
飛び降りる以前に視界は空ばかり
誰かを傷つける勇気もなく 誰かに傷つけられてばかり
むしろ「傷つけられた」と条件反射的に、あるいは一方的に思い込んでばかり
いっそのこと自分で自分を傷つけて生きる意味や存在証明どうのこうのって事で右手にカミソリを握る
真っ先に浮かんだフレーズは「きっと痛いんだろうなぁ」
あの時なんであんなにも臆病だったんだろう
今でもなんでこんなにも惨めなんだろう
簡単なことさ 単純なことさ
臆病で惨めな自分を認めたくなかった
思いきり行きたいって思いきり思った
思いきり泣きたいって思いきり思った
ただ思いきり笑いたいって思いきり思った
思いきり生きたいって思いきり思った
もう何度も考えてはやめを繰り返してきた生きる意味や存在証明どうのこうのあーだこーだ
ようやく見えてきた答え「そもそもそんなの分かるわけがない」
自分の意志で産まれたいと思ったわけでもなく
半強制的強引極まりない状況の中で誰も彼もがこの世に顔を出してんだ
だからといって誰かに頼まれたわけでもない
まぁ、平たく言えば運命みたいなもんか
じゃあ、この鬱陶しく湿っぽい毎日が死ぬまでずーっと続くのかって言ったらそうじゃない
生かすも殺すも自分次第
いっぺんゆっくり両目、閉じてみ?
生きる理由なんてわからない
存在する価値があるかないかなんてわからない
けど、きっとこうだと信じたい「生きる理由や存在価値は死ぬ時にわかる」と
きっとそうだと信じたい
どうせなら深く深く腰掛けてじっくりゆっくり追い求めてみりゃいいんじゃねーか?
簡単な事は楽しい 最初のうちは楽しい
でもマンネリ化しやすくてすぐに飽きてきてしまう
困難な事は辛い 途方もないくらいに辛い
でもその辛さがいずれは楽しさに変わることを知ってる
良い事教えてやろうか?
生きる事って、死ぬ事の何十倍も何百倍も難しいんだぜ?
あの時なんであんなにも臆病だったんだろう
今でもなんでこんなにも惨めなんだろう
簡単なことさ 単純なことさ
臆病で惨めな自分を認めたくなかった
思いきり行きたいって思いきり思った
思いきり泣きたいって思いきり思った
ただ思いきり笑いたいって思いきり思った
思いきり生きたいって思いきり思った