ノー
イシダユーリ

私の口癖は
わからない
彼女の口癖は
面倒くさい
画面をすべっていく
文字
君の顔のうえを
永遠にすべって
君には
降ってこない
ザラメ
それには
トゲがあり
それには
色があり
そして
君には届かない
ということが
甘い
わたしは
目をつぶりそれを味わう
そして
ここで
ひとりになる

わたしは
わからない
と言う
君が指さす
陶器の光を
みながら
わからないよ
指がおれまがっている
わからないな
穴にすいこまれる
視線
夏だというだけで泣いている
子ども
彼女は彼に言う
面倒くさい
求めがわかれていく
葉脈のように
わたしは笑って
いくつかの脈を爪できり刻む
わからない
この道の先は
わからない
面倒くさい
この坂は
とても
面倒くさい
君が
血反吐のように
いつか吐き出すであろう
ことばを
いま
与えている
与える
あいだを
みている

(それはどこからかひろってきたの?)

めをつぶり
わたしは
ひとりになる
けれど、まぶたの裏は
言う
わたしは
君を
ひとりにする
そのよろこびと
いたみ

内臓を手で圧し潰すかわりに
グラスや陶器のコップが壊れ
皮膚を傷つける
それを見る
閉眼

わたしの
ちからの
むさしさ
彼女の
圧倒的な
恐れ

恐れは わたしの 頭を 土に めりこませる 彼女の 手 だ


わかれていく前の求めを
抱えて
君がやってくるとき
歯と歯のあいだの隙間を
みせながら
濡れた睫毛を
皮膚にはりつけている
指は傷ついている
でなければ
汚れている

君の足は
土からはえた
裏側を
もつ
それを
わたしは
わからない
君の爪は
それを
はがそうとする
これは
お前由来のもの
この世のすべての怒り

君は言うだろうか?

夕方の雨を連れてくる風がふき
求めのはしで
しゃがみこむ
子ども
わたしは
おどりをおどっている
死んだ友達もいると
おどっている





自由詩 ノー Copyright イシダユーリ 2016-05-17 22:16:52
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