ひとり 二層
木立 悟






ひとつの花びらが切る空を
どこまでも耳で追いかけて
胸の痛みに振りまわす腕
機械のように歩みゆく径


ひとさし指
夜を作る粒
夜を真似る窓
そこに無い窓


海から来たのか
海へゆくのかわからぬ影が
波打ち際にたたずんでいる
砂岩の音
そよぐ花の音


心を消す日々
呪いという名の祝いさえ無く
火の仮面の鳥の群れ
常に揺れる空の端


夢のなかに忘れた自転車
巨大な建物の裏側の海
日陰の径をぎごちなく歩く
波を指さす母子の列


夜と夜のはざまの中庭
花に埋もれたままの自転車
五千年ぶりに聴く波音に
樹々は少しだけざわめいている


午後を巡るひとりが
夜を追うひとりを見つめている
明るい風のなか
空は蕾に満ちてゆく






















自由詩 ひとり 二層 Copyright 木立 悟 2016-05-16 15:31:29
notebook Home 戻る