骨女
本田憲嵩

暗い夜 かの女はやって来る
静まりかえった廊下にうつろに木霊する甘い声
その濡れたような声 きつく漂ってくる麝香の香り
そのとき ぼくはいつも自然に布団の中で目覚めている


やがて襖はおのずから開かれる
切れ長の妖艶なまなざし 幽かに浮かぶやさしい微笑
ゆっくりと解かれていく帯――曝けだされる青白い肌
あまりにも浮世ばなれしすぎていて ぼくは布団のうえで抗うことを知らない


その接吻は ぼくの健やかな血に毒を注ぎこむ
はげしい情欲の毒の炎を
もはや時間の概念も疑念もないひと時
やがてかの女は素裸のまま骸骨となる


暗い夜 かの女はやって来る
ぼくはしだいに闇に近づいてゆく
そしていつの間にか、
ぼくはすっかりと皮と骨ばかりに痩せこけてしまった



自由詩 骨女 Copyright 本田憲嵩 2016-05-06 03:04:17
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