どこにもいない人
ふるる

どこにもいない人
どこにもいなかった人の
残像
ひぐらしうずまくその中で
黒い影が夕日を浴びる

ですらない
どこにもいない人
行く場もなく
たった一人の夢の中
残像は生活し
水を飲み
眠り

きれいだ
と感じてしまう
眠るきみの
うす青いまぶた
指でなぞれば
感じるのに
これは誰かの残していった
誰かの愛しい記憶
どこにもいない人
どこにもいなかった人が
水を飲みほし            ささやく耳元
発する             誰かの身体に向けて
花が散る           どこにもいない人の
星も散ってゆき       言葉 が
どこにもいない人は      散ってゆく
どこにもいかない
               ひぐらし
季節はめぐりゆき      雨のようにヴェールのように
立っている影だけが動き    影を包み

ほそいほそい道を
編んでいる人        わたしたちは
首を傾けながら        どこにもいない人
その道に            どこにもいなかった人
夕日を浴びる            けれど
黒い影                手を振る あなたたちへ
どこにもいなかった人の         手を振っていいだろうか
残像が                愛しい
裏側にあらわれて          きれいだと
懐かしさにあふれ           感じて
誰かの愛しい記憶            しまう
その
記憶もまた            それだけ
どこにもいない人          それだけのこと
どこにもいなかった人のもの      なのだ

                      けれども



自由詩 どこにもいない人 Copyright ふるる 2016-05-04 16:30:00
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