沸点
本田憲嵩

液体の膨張がぼくを支配する
そのしぶきが吹き零れようとするのを抑える
漁火のように照る女の
光るふたつのオニキス
そこに浮かぶ小さな彗星の軌跡
じりじりと焼き爛れる腰の捻り
ぼくの血管の鉱炉(かなろ)のなかで絶えず
どろどろと溶解していって
あっという間に沸点に至るもの
その膨張を引力で助長する
悪意あるもの
満月
絶えず女の火を脅かそうとする
やがて赤く焼き爛れる獣の焼死体となって
横たわる時
それでもなお血管の内側の炉から
燻ぶる残り火に
ちろちろと焼かれている



自由詩 沸点 Copyright 本田憲嵩 2016-05-04 01:44:18
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